禁煙治療が無料? 事例で理解する禁煙治療のまとめ

禁煙治療に健康保険が適用されるようになり、10年以上が経過しました。
施設内が禁煙であることなど、いくつかの施設基準を満たした医療機関で禁煙治療を受けることができます。
喫煙率は男女ともに低下傾向にあるものの、厚生労働省による直近のデータ(第26回保険者による検診・保健指導等に関する検討会)によると、以下の傾向が見られます。

  • 喫煙率は23.0%であるが、男性34.2%、女性9.4%と男性の喫煙率が高く、とくに40~44歳の男性の喫煙率が41.1%と高い。年齢階級があがるほど喫煙率は低くなる。
  • 保険者種別では、共済組合は喫煙率が低く、全国健康保険協会は男性の喫煙率が高い。

禁煙治療では、貼り薬や飲み薬を使っての治療に加え、定期的な診察を受ける必要があります。
医療機関で禁煙治療を受けた人は、自分の意志だけで禁煙をがんばる人よりも確実な効果が見られています。

保険診療で禁煙治療を受けるには

一定の要件を満たすことで、みなさんがお持ちの健康保険証を利用し、近くのクリニックや病院で禁煙治療を受けることができます。
医師や看護師等に相談しながら、健康保険を使った禁煙治療を始めてみましょう。

治療に必要な「 一定の条件 」とは

保険診療で禁煙治療を受けるには、以下の3つの条件全てを満たすことが必要です。

  1. 直ちに禁煙することを希望している患者であって、「禁煙治療のための標準手順書」に則った禁煙治療について説明を受け、当該治療を受けることを文章により同意していること。
  2. 35歳以上の者については、1日の喫煙本数に喫煙年数を乗じて得た数が200以上であるもの。
  3. 「禁煙治療のための標準手順書」に記載されているニコチン依存症にかかるスクリーニングテスト(TDS)で、ニコチン依存症と診断されたもの。

治療の流れ、治療期間について

医療機関で禁煙治療をする場合、標準的な禁煙治療のプログラムが決められています。
病院敷地内(駐車場も含む)が禁煙であることなどの施設基準を満たした施設において、先ほどの3つの条件全てを満たす患者さんに対し、12週間にわたり計5回の禁煙治療を受けることになります。
多くの医療機関では、初めての診察日(初診日)に、計5回の受診スケジュールが決められますので、計画的に治療を受けることができます。

それでは、事例を通じて具体的な治療方法を見ていきましょう。

愛娘が誕生し、禁煙を誓ったイサムさん・37歳

イサムさん(37歳・男性)は、35歳の時に幼馴染だった女性と結婚。
昨年、パートナーの妊娠が発覚し、先月、可愛い女の子が無事に誕生しました。
妊娠が分かってから、
「子どもができたんだから、オレは禁煙する!!」と、その名のとおり勇ましく?パートナーに宣言はしたものの‥‥‥。

お付き合いの席や、独りになると、
「昨日ガマンしたから、今日だけ‥」
「今一人だから、誰にも迷惑をかけないし‥‥」

どうしても、タバコを止めることができません。

ある日、目の前にいる可愛い娘の笑顔を見て、イサムさんは決心しました。
「 やっぱり、禁煙しよう。 」

禁煙治療は、受診予約が必要?

愛する我が子のために、禁煙を誓ったイサムさん。
以前、友人から、
「禁煙治療を受けられる病院(医療機関)と、受けられない病院があるらしいよ?」と、耳にしたのを思い出しました。
そこで、以前インフルエンザの予防接種でお世話になった近所のA診療所に電話連絡をしました。
すると、「当診療所は施設基準を満たしていたいため、保険診療での禁煙治療はお手伝いできません。」

なんと!! 断られてしまいました。

でも、そこであきらめなかったイサムさん。
朝夕の通勤時にいつも前を通り過ぎるだった、駅前のBクリニック存在を思い出し、受診相談の電話をします。
「はい、禁煙治療ですね。わかりました。ご都合の良い日時を教えてください。」

駅前のBクリニックは、保険診療での禁煙治療が可能な医療機関だったようです。

「それでは、水曜日の15時にお願いします。」
来週水曜日の午後3時に受診の予約となりました。

初めての診察(初診)

今日は「禁煙治療デビュー」の日。
イサムさんはドキドキしながら朝を迎えました。
朝食をとり、愛する娘の顔を見ながら会社に行く準備をして、「 行ってきます 」。
明るく家族に伝え、家を後にしました。
午前中の勤務を終え、友人たちと昼食。
昼食後、いつもの一服。
「 ダメダメ、今日から禁煙をするんだ。    ‥‥。」

年次休暇を会社に申請していたため、14時ちょうどで帰社。先日予約したBクリニックにそのまま向かいました。
14時45分、予約時刻より少し早かったのですが、Bクリニックを訪問。
「午後3時に予約してイサムです。今日はよろしくお願いします。」
受付の女性にそのように伝え、健康保険証を渡しました。
少し待つと診察室から名前を呼ばれたイサムさん。
ドキドキして診察室に入り、医師に挨拶をします。

禁煙したいこと。そのきっかけは娘が誕生したこと。タバコは身体によくないとわかっているけれど、止められないこと‥等々、担当の医師に伝えました。

この度は娘さんのご誕生おめでとうございます。はい。今イサムさんからお話を伺ったところ、直ぐにでもタバコをやめたいというお気持ちなんですね。
イサムさんの禁煙の意思を確認することができました。

禁煙治療というのは、○×○×‥‥です。治療のプログラムは、一般的に‥‥。

今の説明に納得され、禁煙治療を希望するようであれば、こちらの同意書にサインをおねがいします。同意書というか、誓約書のようなものになります。

医療保険で禁煙治療を受ける条件その1
 直ちに禁煙することを希望しているものであって、禁煙治療について説明を受け、当該治療を受けることを文章により同意していること。


「それでは、イサムさんが保険診療の対象患者となるかどうか、2つのチェックをしますので、協力してくださいね。」

そのように医師に言われ、促されるまま2つの検査を受けることになりました。

① 1日の喫煙本数×喫煙年数 ≧ 200  ?

まず初めに伺います。一日の喫煙本数はおおよそ何本ですか?
正直に、お答えください。

え~と、、15本くらいだったような気がします。  あっ、
いや、ひと箱なので20本です。  はい。1日20本です。。

喫煙年数は、おおよそ何年ですか?

そうですね‥。10年、いや11年か12年くらいかと思います。

タバコを吸い始めたのは何歳のころですか?   正直に!

すみません。‥‥じつは、17歳ころから吸っています。それからずっとなので、う~ん、20年。。。
喫煙年数は、20年です。

医療保険で禁煙治療を受ける条件;その2
 35歳以上の者については、1日の喫煙本数に喫煙年数を乗じて得た数が200以上であることが条件の一つ目です。

イサムさんが1日に吸うたばこの本数は20本。
17歳から喫煙を初めて現在に至るわけですので、喫煙年数は20年ということになります。
この数字を上記条件その2に当てはめて考えると、

20本(1日の喫煙本数)×20年(喫煙年数)=400

この数式の答えが200以上というのが条件でしたので、条件その2はクリアしました。

② あなたは、ニコチン依存症ですか?

診察室で少し待たされたイサムさん。
担当の医師が診察室に入ってきて言います。

さて、これから、10項目の簡単な質問を伺います。
準備はよろしいですか?

はい、お願いします。
正直にお答えします。

わかりました。
ちなみに、
はい(YES)は1点、
いいえ(NO)は0点です。
10の質問項目のうち5点以上の場合、保険診療での禁煙治療が可能です。

そうですか。
条件1の「治療の同意」と「同意書(誓約書)にサインを先ほどしました」し、
条件2に該当する先ほどの質問の計算式の値は400でしたので、
これから質問される項目のうち5つ以上が当てはまれば、わたしは保険診療を受けることができるということなんでしょうか??

イサムさん、その通りですよ。
これからお尋ねする10の項目のうち5つ以上に当てはまるようであれば、他の条件はクリアしていますので、本日から保険診療を開始しましょう。

あっ、ちなみに、5点以上の場合‥
ニコチン依存症と診断します。

では、はじめます。

!!!

TDSニコチン依存度テスト

          設問内容はいいいえ
1自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまうことがありましたか?
2禁煙や本数を減らそうと試みて、でkなかったことがありましたか?
3禁煙や本数を減らそうとしたときに、タバコがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか?
4禁煙したり本数を減らそうとしたときに、次のどれかがありましたか?
(イライラ、神経質、落ち着かない、集中しにくい、
ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、
手のふるえ、食欲又は体重増加)
5問4.でうかがった症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか?
6重い病気にかかった時に、タバコは良くないとわかっているのに吸うことがありましたか?
7タバコのために自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか?
8タバコのために自分に精神的問題(※)が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか?
9自分はタバコに依存していると感じることがありましたか?
10タバコが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか?
                       合計

(※)精神的問題とは
 禁煙や本数を減らしたときに出現する離脱症状(いわゆる禁断症状)ではなく、喫煙することによって神経質になったり、不安や抗うつなどの症状が出現している状態。

イサムさん、お疲れさまでした。
10の質問のうち「はい(YES)が、8つ」でしたね。
5つ以上が条件でしたので、これですべての条件をクリアしたということになりますね。

よかったです。いや、よかったというか‥
まぁ、本日から禁煙治療を開始できるということでよかったです。

先生、私はニコチン〇〇〇なんですね‥(( ゚Д゚)!)

保険診療の流れ

あらためて、保険診療の流れを確認しましょう。
保険診療における標準的な禁煙治療は、12週間にわたり5回診察を受けるプログラムになります。
先ほどのイサムさんは、令和元年11月1日が初診でしたので、今後のスケジュールは次の通りとなります。

例)
 1回目(初診);11月1日
 2回目    ;11月15日(初診から2週間後)
 3回目    ;11月29日(初診から4週間後)
 4回目    ;12月27日(初診から8週間後)
 5回目(最終); 1月24日(初診から12週間後)

禁煙治療の内容は

受診する医療機関や担当する医師によって多少の違いはありますが、おおよそ次のステップで診察がすすめられます。

最初の診察で行うこと


1、ニコチン依存症かどうかの確認
 (問診により、どれだけニコチンに依存しているかの検査)

2、呼気一酸化炭素濃度測定
 (吐く息がどれだけたばこで汚れているかの検査)


3、「禁煙開始日」の決定。禁煙宣言
 (禁煙開始日を医師と相談、決定。禁煙宣言書(同意書)に署名します)
以上、 保険診療の対象となるかどうかの確認検査 です

4、診察・問診
 (喫煙歴や今の健康状態、今後の診察のことなどを医師と話し合います。)

5、お薬の選定
 (医師から禁煙補助薬の特徴や使い方の説明を受け、自分に合った薬剤を決定します)

通院2~5回目の診察で行うこと

繰り返しますが、保険診療における禁煙治療では、
初回の診察から2週間後、4週間後、8週間後、12週間後の間隔で、計5回医療機関を受診することになります。
診察では、治療に対する状況の確認や不安がないか、禁煙を続けるためのアドバイスや、現在使用している薬剤の効果・副作用の確認をしてもらいます。
おおくの場合、診察では次のような流れになります。

  1. 診察;禁煙状況や健康状態の確認
  2. 一酸化炭素量の測定
  3. 今後も禁煙を続けられるための助言など
  4. 処方された薬の効果や副作用の確認。今後の対応など。

禁煙治療って、いくらかかるの?

禁煙はしたいけれど、治療費がいくらかかるのか…すごく気になりますよね。
しかも、保険診療による禁煙治療とはいえ、1回で終わらず、12週にわたって5回の診察が必要。
実際のところ医療費はどのくらいかかるのでしょうか?

結論;禁煙治療には、薬代も含めると合計約20,000円の医療費がかかります。

使用する薬剤にもよりますが、禁煙治療の一連のスケジュールに対してかかる費用は、3割負担の場合、おおよそ20,000円のようです。
1割負担の場合、おおよそ6,550円となります。

費用の内訳は次の通りです。

        内訳費用自己負担額
(3割負担の場合)
Bクリニック初診料+再診料7,780円
ニコチン依存症管理料9,620円   6,040円
院外処方箋料2,720円
調剤薬局調剤料6,160円13,620円
禁煙補助薬39,230円19,660円
              合計65,510円19,660円


あなたも利用できる? 治療費をさらに補助してくれる制度について

先ほど、健康保険の3割負担の人で約2万円の自己負担が必要とお伝えしましたが、その自己負担金を補助してくれる制度を利用できる場合があります。大きく2つの方法があります。

会社の健康保険組合独自の付加給付

お手元の健康保険の種類について、皆さんはうまく理解できているでしょうか?
国民健康保険と社会保険以外の「○○健康保険組合」と書かれた保険証の場合、多くの場合、組合独自の制度を持っています。
それを、「付加給付」と呼びます(ここでは詳しい話は省略します)。


例えば、東北電力の場合‥‥
 禁煙外来治療費用助成として、禁煙外来治療(禁煙治療プログラム)を受診した方の治療に要した自己負担額の全額を助成します。
すごいですね。全額補助。一度自分で医療機関に医療費を支払いますが、審査のうえ全額が戻ってくるという制度です。自己負担金ゼロ。

市町村独自の取り組み

先ほどは、国民健康保険以外とお伝えしましたが、健康保険ではなく、あなたがお住いの市町村が独自で取り組む禁煙治療の補助制度を利用することができます。
多くの場合、市町村の保健センターや健康づくり課と呼ばれる部署が担当することが多いので、これから禁煙治療を始める方、迷っている方は、一度確認してみてはいかがでしょうか?


例えば、四条畷市(大阪府)の場合‥‥
 禁煙外来医療費助成制度として、健康保険での禁煙治療を完了した場合、禁煙外来でかかった治療費の2分の1を助成します。制度の利用には、治療開始前の登録申請が必要です。
2分の1を助成してくれる、ということは、医療費が約2万円とした場合、その半分が戻ってきますので、自己負担金1万円で禁煙治療ができるということになります。